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(かまくら便り「耄碌以前」)
(旧)

 
癌研入院まで

 
今年の病気を総括
2010.12.16
 後世への語り草になる筈の今年の夏の暑さを、まだ忘れかねているせいか、例年の如く足早にやってきた師走の日々の光と影は、私には初冬というよりは、まだ秋たけなわの輝きという感じがしてなりません。

 自分の病気に半年向き合って、季感が一寸狂ったのかもしれません。

 12月4日に癌研有明病院を退院して来て、6日からまた診療を再開しています。この入院手術のための休診の予定を、来院された方には10月末頃から出来るだけお知らせして来たつもりでしたが、それでも伝達不十分で、休診の日に来診されて無駄足を踏ませてしまった方々が若干あったと聞いて申し訳なく思っております。

あらためて各位にご迷惑をお掛けしたことをお詫び申し上げます。

 以下は通例のぼやきですが、いうなれば「今年の病気」の総括で、自分の備忘のためです。

2010年
6月6日(日)
狭心症発現。
歩行時の左胸部の重苦しさは数年前から頻発していたがこの日それとはっきり認識した。遅い。
6月10日(木)
湘南鎌倉病院循環器科受診 即日冠状動脈造影。
病態の説明と今後の治療計画を総て小医院の休診日に合わせて立てて貰って感激。翌11日11時退院。
6月16日(水)
13時 入院。 17時 第1回インターベンション。
ステント3本挿入(右冠状動脈及び左冠状動脈廻旋枝)。抗血小板剤内服開始。
6月17日(木)
13時 退院
8月18日(水)
10時 入院。 15時―17時 第2回インターベンション。ステント3本挿入(左冠状主基部及び前下行枝) 
8月19日(木)
11時30分 退院
9月8日(水)
新築移転したばかりの新湘南鎌倉病院初受診。
経過良好なので以後外来通院不要(!)と。(斎藤 滋主治医)
この頃、8月下旬頃から時折大便表面に浅紅色の線状、斑状の鮮血を見るようになっていた。4年前の直腸癌の再発を覚悟せざるを得ない。
9月15日(水)
16時 ヒロ病院外科(.佐藤医師・前回の主治医)受診。明瞭な癌性の病変は見えぬし、触れもしないが一応前回手術の瘢?付近の組織検査をやってみましょうと。
9月22日(水)
15時 ヒロ病院外科(佐藤医師)再受診。
病理組織検査結果は分化型腺癌。
4年前の癌再発(!)。
佐藤医師の考察: 
○抗血小板剤が微細な癌性潰瘍からの出血を誘発したとすれば、それが再発の早期発見を可能にしたのだからむしろ僥倖というべきで、その幸運を生かすとすれば根治を目指してMilesの手術が最善であろう・・と。
すなわち直腸切断、流域リンパ節廓清、人工肛門造設。

 一般論としては、今後の方策としてMiles手術を第一に挙げるのが常識ではあるだろう。
 元消化器外科医としての私にとっても、それが最も妥当な選択である。癌とみれば根こそぎ切り取ることで「治そう」と反射的に考えて来たクセは、外科から足を洗って20年になる今でも抜けない。

 しかし「冠動脈硬化の著しい」「74歳の」「開業医」という但し書きの多い患者に、この場面で根治手術が必ずしも最善の策ではないのではないか。

 
 血管の硬化が明らかで、もはや平均余命を大幅に超過して生きることが期待出来ない老人には、癌の根絶を目的とした手術は意味を持たないし、生涯(というほど長くはないにせよ)にわたって人工肛門という扱い難い不便を残してまで、大きな侵襲を老体に加える必要はあるまい。

 また、手術の為に一カ月以上の長期の休診が必要となれば、それだけで自転車操業の医院の経営が破綻することは明らかであるが、といってこの際潔く閉院するとなれば、いかにも準備不足で患者、従業員の蒙る迷惑は甚だしいものがある。

 無理なく閉院するには最小限でも3-4ヶ月、出来れば1年ぐらいの準備期間が必要だと思っている。軟着陸を考えない、突然の閉院は難しい。

 とりあえず休診期間が2週間以内であれば、復帰した時経営への打撃から回復することは可能かも知れないという、ヤマカンといういささか根拠の乏しい希望的観測のもとに、今後の治療法を考える。

 抗ガン剤は論外としても放射線療法は一考の余地ありだが、前回放射線医に相談した時も要領を得なかったことを思い出し、「再々発」の際には第一選択とすることにして、この際は、“最小限の入院期間で最小限の手術を受ける”という方針で、肛門機能温存手術に熱心な施設をネットで探した。活発に学会発表をしている関東の個人病院の筆頭にヒットした。

9月30日(木)
大宮新開橋クリニック(佐藤知行院長)受診。
丁寧に診てくれて括約筋を残す機能温存手術は十分可能との説明だったが、先駆者としての責任感からか準備に万全を期すとのことで、湘南鎌倉病院循環器科の心肺機能保障書類、術前3回の自己血の預血、手術入院に3週間、さらに縫合不全に備えて臨時に人工肛門を造設するので半年先にそれの閉鎖のために3週間の再入院を必要とする・・とのこと。仰天した。
           *  *  *  *
往復4時間余をかけて、輸血用の自己血を採って貰いに明後日から3回の通院後、順調に運んで3週間の入院、人工肛門を作って貰ってとりあえずの退院を果たしても、これでは即時に仕事を辞めざるを得ない。
まさに塵労。

一夜考えて、10月1日断念のメールを送る。

10月7日(木)
巣鴨西台クリニック受診。
全身PET/CT撮影。癌が肝、肺などに転移していれば計画の全ては無意味に終わるので、大宮行きの翌日、急遽連絡したら幸運にもこの日空きがあり予約が取れた。
10月13日(火)
PET/CT結果報告到着。
他に病巣無しと。
癌研の肛門機能温存手術以外に選択の余地はない。幸いにして癌研病院の病診連携室の応答は温かく、要領を得ていて満点であった。1本の電話、約3分で万事OK。

10月21日(木)
癌研究会付属有明病院 消化器外科受診(小西 毅医師)。
小西医師の見解:
○まず検査を重ねてより精密に病態の評価をする必要はあるが、概観で再発病巣の進展度は比較的早期でMiles手術なら100%治癒が期待出来る進展度と見る。

○ただし粘膜下層に及んでいる場合、10-15%のリンパ節転移がある、その廓清をしないとなれば5年生存率は70%程度かと。

○最近の癌研の手術例の殆どは腹腔鏡を使った肛門機能温存を企ているのでMilesを望まぬという要望には勿論応えられる。

○ただしその場合も一時的に人工肛門を作って縫合不全に備える必要はあるし、術後のストーマ処理の学習期間を入れて1カ月以上の入院は必要であろう。預血は不要。

○最大の問題は心機能と、その関連で抗血小板剤を中絶することが可能かどうか。やはり湘南鎌倉病院循環器科の見解が欲しい。

○現在の仕事への影響を最少にするための通院で出来る検査をなるべく木曜日にして入院前に済ませておきましょう。

10月27日(水)
9時 大腸ファイバーと注腸造影。
この検査だけは他の日の予約が取れなかった。やむなく前夜21時に病院傍のワシントンホテルに投宿、4時に起きて洗腸用の水やら下剤やらを6時半までにしたたか呑んで8時半登院。

自分の外来は休めなかったのでスタッフに無理を言い、診察なしで処方箋を出して貰う。
幸い午後は休診日で損害軽微(?)。

10月28日(木)
11時 呼吸機能、11時40分 麻酔科横田医師診察、14時30分腹部超音波、15時小西主治医と面談。

前回の局所切除以後今回の再発までに4年を要していることから、今回も手術を縮小して肛門管部位の再発部のみの局所切除に止めた場合、その結果、三度めに再発するとしてもそれが明らかになるのは今から4-5年先になる筈、その時まで寿命があったとしても私は既に80歳である。

それならば今回の手術の効果としては十分ではないだろうか。よろしく局所切除に止め給えという私の要請に、小西医師は手術法の選択は人生観の問題だからとして快諾してくれた。(同君の父親は同じく消化器外科医で、私と同年齢とのこと)。

また局所切除なら抗血小板剤の内服を続けながら出来る可能性があることにもなるが、麻酔科の横田部長はそれよりも心臓の予備機能が問題で、それに冠状動脈のトラブルが起これば肛門どころか生命が危ない事態になる。心機能について湘南鎌倉循環器科の文書での保障が必要と。

11月2日(火)
15時 胃内視鏡。これも予約変更は無理でやむなく火曜日の午後を休診にして上京、有明へ。

しかし、検査は受けて見るべきもので、全く意外にも、ここで胃癌が発見された。

癌と思われる隆起性病変を、私も画面で見ているのだが、何の感興もなく「あ、あるな」と思うだけで、後で施術者から説明があるだろうと思いながら、内視鏡が抜かれるとすぐに忘れてしまっていて、11月25日小西医師から指摘された画面を見て思い出した。

この健忘と奇妙な既視感は多分直前に注射されていた「鎮静剤」のせいだと思う。

11月4日(木)
15時 下腹部MRI。

癌周辺の浸潤状況が判るかもと勇んで出かけたが、放射線科の医師から冠状動脈ステントグラフト施行後3カ月以内に強力な磁力線を浴びせた経験がないので、主治医の見解を質したいが連絡が取れない、悪いがキャンセルさせてくれと断わられた。

有明病院で連絡不備だったのはこの時だけだった。循環器科で聞いてくれと粘ったが駄目で、無為に帰宅。

11月10日(火)
14時 湘南鎌倉病院循環器科入院 冠状動脈造影。有明病院小西、横田医師からの要請で湘鎌柳沢医師が再度造影してくれることになって、急遽予約を取って貰った。結果ステント有効。

ただし同時に試みた左室造影では左室壁の動きが悪く心機能はヨロシクナイとのこと。
インターベンションの効果が劇的というほどでない気がしているのはそのためらしい。評価の細部については柳沢医師から直接有明病院に伝えて貰うこととして11日正午退院。

11月18日(木)
10時 消化器外科小西医師 11時半麻酔科横田医師。
○手術は経肛門的局所切除、抗血小板剤内服は続ける方針決定。

○本来なら心臓の専門医の常在する大学病院で手術すべき症例で、有明病院でも抗血小板剤を続けながら手術をするのは初めてで、実は経験した医師は居ないが、折角機能温存を謳う専門病院を頼って来られたのだからプライドにかけて要望に応えることにする。

○しかし直腸粘膜下静脈叢の出血を甘く見ないで欲しいし、また心筋梗塞が起これば救命はまず出来ないことを覚悟しておいて欲しい。

術後3日間はHCU( heart care unit ?)に入る予定。

11月25日(木)
17時 消化器外科小西医師 家族3人と共に最終説明を聴く。

要点は上記に尽きるが、只一つ新たに問題が生じているとのこと。

○胃内視鏡で隆起性病変が発見されている。早期ながら胃癌と思われる。

○抗血小板剤を内服している現在、出血のコントロールが不能に陥る危険があって、診断の為の生検は現在、出来ない。

○今回の直腸の手術による出血は経肛門的に密に縫合することで止血可能だが、胃の場合、内視鏡手術では勿論、生検だけにしても止血操作は困難で、生命の予後に関わる危険がある。

○方針としては予定通りまず直腸の方を処理してのち、明年の夏以降、抗血小板剤の内服が不要になった時点で、胃癌の検査と手術を再設計する。

禍福はまた転回して、一難去って(まだ去っていないが)また一難の観があるが、お任せするしか他に妙策は無い。故に11月27日入院、29日手術は予定通りとする。

11月27日(土)
10時 癌研有明病院消化器外科入院。
11月29日(月)
手術
12月4日(土)
退院
12月16日(木)
消化器外科小西医師 再診。術後経過極めて順調。
 

組織検査の結果を聞いてから、手術前後の感想などを「ぼやく」つもりだったが、結果未着の由。
以下稿を新たにする予定。
(迪: 2010-12-16)

 



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