鎌倉常盤の漢方内科--田中医院

実際の診療において漢方薬の効果が実感できた症例

西洋医学では、病気の診断を行ってから処方薬を決めるのに対して、漢方医学では、各々の体質に合った処方薬を決めて、体のゆがみを徐々に改善しながら病を治して行こうという考え方をします。

実際の診療のなかで、漢方薬を投与してみて思わぬ効果が得られた症例がたくさんありますので、一部を紹介します。




パーキンソン病

 パーキンソン病の患者の右手がグローブの様に腫れてしまい、蜂窩織炎ということで抗生物質が投与されていました。

しかし、何度も蜂窩織炎を再発するため、排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)を投与したところ、蜂窩織炎が収まったばかりか、パーキンソン病のon、off現象まで改善してしまったので、投薬した当方も驚きました。


不妊症
 

 最近あった嬉しい出来事、長年不妊症で苦労されていた患者さんですが、私が処方した当帰芍薬散加附子(とうきしゃくやくさんかぶし)の内服で懐妊されました。

妊娠のサインの督脈(とくみゃく)がしっかりと感じ取れました。私の不妊症治療成功例21例目になります。

以前、同僚の鍼灸師の女性が不妊症で悩んで私の外来に来られたこともありました。漢方では安胎薬として女性に頻用される当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を処方し、「あせらずに時期を待ちなさい」と伝えながら治療を続けたところ、9ヶ月後に妊娠がわかり、さらに無事出産され、大変感謝されたのでした。


小児喘息 喘息様気管支炎

 自分の息子が喘息になり、3歳前後は絶えずゼーゼーしていた覚えがあります。親としてこれほど辛いものはないし、何とかしてあげたい....。

そこで、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)を用いたところ、徐々にゼーゼーとした呼吸が減ってきて、喘息を克服してしまいました。

その後も、時々、昔の我が子と同じ様な症状の子供が受診することがあり、親御さんの辛い気持ちが痛いほど伝わって来ます。

そんなとき、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)、五虎湯(ごことう)などを用いることで改善する例を、かなり体験しています。治った時はこちらも嬉しくなります。


腰痛症、筋肉痛、膝関節痛

 腰痛、筋肉痛、膝関節痛をこじらせて困っている方も多いです。

疎経活血湯(そけいかっけつとう)や大防風湯(だいぼうふうとう)、桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)などで改善する例も沢山経験しています。


脊柱管狭窄症

 重症の脊柱管狭窄症で歩行困難になり、もう治る見込みがないと言われて、最後の希望を持って私の外来に来られた方が過去に2名おられます。 

浅田宗伯先生著の「方函」「口訣」からヒントを得まして、煎じ薬は手間はかかりますが、加味四物湯(かみしもつとう)を処方したところ、1名は手押し車を使いながら歩ける様になり、もう1名は車椅子から杖歩行で、何とか歩ける様になりました。


給食が食べられない 虚弱体質

 体の線が細く、食も細くて、小学校に入ってから、「給食が食べられない」「虚弱体質で困っている」というお子さんを伴って受診される親御さんがたまにおられます。

私自身も、小学生時代は、食が細く、すぐ風邪を引くいわゆる「線の細い子供」であったため、その辛さは痛いほどわかります。

昔は給食は残してはいけなかったので、5時間目の授業が始まっても、まだ給食を食べさせられていた思い出があります。

そのようなお子さんには、黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、六君子湯(りっくんしとう)などの「補剤(ほざい)」と呼ばれる、元気の出る薬を処方しています。特に、黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)は成分に膠飴(こうい)と呼ばれる「アメ」が入っているため、甘くて子供にも飲みやすいのです。

学年が上になるにつれて、周りの子供と遜色がないほど体格も立派になる例を多数経験しています。


夜尿症

 夜尿症も親泣かせの症状です。しかし、諦める必要はないと思っています。

今までの経験では、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、抑肝散(よくかんさん)などを用いているうちに、自然と軽快している例を経験しています。


落ち着きがない

 「落ち着きがない」ということで子供を連れてくる親御さんがいらっしゃいます。

そんなお子さんには、抑肝散(よくかんさん)、桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)などを、体質に応じて投与すると、改善のみられる例が多いようです。


風邪をよくひく

 よく風邪をひくんですと連れて来られる患児。たいてい、こういう子供さんは胃腸が弱くて、麻黄(まおう)の入っている葛根湯(かっこんとう)などの処方は飲めませんので、香蘇散(こうそさん)、桂枝湯(けいしとう)、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)などを出します。

そうしてしばらく様子を見ているうちに、だんだん風邪をひきにくい体質になっているようです。


冷え性がひどい

 冷え性というのも、本人にとっては辛い症状であろうことは、想像に難くありません。

漢方には冷え性を治す処方が沢山あります。体質に応じて当帰芍薬散加附子(とうきしゃくやくさんかぶし)、当帰四逆加生姜湯加附子(とうきしぎゃくかしょうきょうとうかぶし)、真武湯(しんぶとう)などを用いています。

これらの薬を服用しているうちに、自然と「長年のしもやけが治った。」「長「生理痛がいつもより軽くなった。」などの声をいただくことも多いのです


下痢が治らない

 漢方では、同じ下痢でも幾つかの分類をして、体質別に処方を決めています。

いわゆる、感染性胃腸炎の嘔吐下痢症では五苓散(ごれいさん)を、冷たい飲食物を摂りすぎて下痢になった場合は、胃苓湯(いれいとう)を、胃腸の蠕動運動亢進の下痢の場合は大建中湯(だいけんちゅうとう)を用います。

また、虚弱体質などで、渋り腹があり、お腹が張って苦しい時には桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を、逆に渋り腹や腹満はないが、排便時にはいつも下痢だという場合には、啓脾湯(けいひとう)を用いると改善する例が多いです。

消化吸収能力が衰えて、食べた物がそのまま未消化で下痢になる場合を、漢方では「完穀下痢(かんこくげり)」と言いますが、この「完穀下痢」には、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)を用います。

さらに、寒冷刺激で悪化する下痢症や「五更泄瀉(ごこうせっしゃ)」と言って、毎朝、夜明け頃に下痢する症例では真武湯(しんぶとう)を用いて軽快する例が多いのです


めまいが治らない

 横になっている体位から立ち上がると起こる回転性のめまいでは、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を、胃腸が弱く冷え性を伴う回転性のめまいでは、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)を、どうにもならないひどい回転性めまいでは、沢瀉湯(たくしゃとう)を、地面が揺れる様な動揺性めまいでは、真武湯(しんぶとう)を用いると改善する場合が多いです。


ひどいのぼせ症

 のぼせ症の原因には、甲状腺機能亢進症や、更年期障害、高血圧など様々な原因がありますが、特定できない場合も多いのです。

漢方では、体質を見て処方を判断しています。

とにかくのぼせて発汗がひどい場合には、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)を、発汗はそれほどひどくないが、のぼせて頭の重い感じのある例では桂枝人参湯(けいしにんじんとう)を、のぼせて何となくもやもやして手足がほてる例では三物黄ごん湯(さんもつおうごんとう)を、血圧が高めでイライラがあるのぼせ症では、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)や三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)を、脳動脈硬化症を伴う例では釣藤散(ちょうとうさん)を用いると軽快する例が多いです。


耳鳴り

 耳鼻咽喉科などで精査しても原因のわからない耳鳴りの症状に悩む方もいらっしゃいます。

下半身の筋力の衰えや排尿障害を伴う、加齢現象による耳鳴りでは、八味地黄丸(はちみじおうがん)を、脳動脈硬化症を伴う例では釣藤散(ちょうとうさん)を、めまいを伴う例では苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を試して軽快した例があります。


アトピー性皮膚炎

 現代の難病の一つ、アトピー性皮膚炎。アレルギー体質のために喘息や膠原病が隠れている場合には、まずそちらの治療を優先します。

しかし、いろいろ試してもなかなか改善しないアトピー性皮膚炎が多いのも事実です。

痒みがひどい、皮膚のカサカサした場合(漢方では皮膚の枯燥(こそう)と言う)には、当帰飲子(とうきいんし)。

皮膚が湿潤していて夏になると痒みがひどくなるような例では、消風散(しょうふうさん)。

「おけつ」と言う血液の循環の滞っている例では、温清飲(うんせいいん)などを用いると改善する例が多いです。

また、苦参湯(くじんとう)と言って、苦参(くじん、西洋のハーブではクララ)一味を煎じて、入浴する際に外用(皮膚に塗る)したり、入浴剤として風呂の中に入れると、皮膚の痒みが解消され、皮膚を掻き壊す回数が減って、アトピー性皮膚炎の増悪を防ぐことができます。


難聴、耳が遠くなった

 加齢現象と共に耳が遠くなることは多く見られます。そのような症例では、足のほてりがあれば、六味丸(ろくみがん)を、逆に足の冷えがあれば、八味地黄丸(まちみじおうがん)を用いると改善する例があります。

また、加齢現象ではなく、難聴の場合には柴蘇飲(さいそいん)を用いると良いことが過去の文献に見られます。


しつこい膀胱炎

 膀胱炎を繰り返して、抗生剤を投与されて、耐性菌ができてしまい、その後の膀胱炎の治療に難渋している方が、漢方に救いを求めて来院されることがあります。

膀胱炎も、体を冷やさないこと、つまりは体の抵抗力を低下させない生活をすることが重要です。

その上で、体質別に、頻尿がある例では猪苓湯(ちょれいとう)を、血尿を伴う例では猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)を、体力の低下している冷え性の例では清心蓮子飲(せいしんれんしいん)を、尿に混濁や排尿時痛のある場合には五淋散(ごりんさん)を、逆に体力は十分あるけれど、排尿のトラブルがあるという場合は、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)を用いると軽快する例が多いです。


う歯、ムシ歯

 ムシ歯に漢方?と思われる方も多いでしょう。

立効散(りっこうさん)という、ムシ歯の特効薬が漢方にはあります。また、風邪に頻用される葛根湯(かっこんとう)や、ニキビの特効薬の清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)を服用して効果がみられることもあります。


眼瞼けいれん、顔面けいれん

 最近職場の配置転換があったという20歳台の女性が漢方外来にやってきて、泣きそうな勢い。自分の職場の机に座ると、眼瞼けいれん、顔面けいれんが自然と起きてしまうというのです。

神経内科の先生にみてもらったが、何だかわからない西洋の薬を処方されそうになって困ったといいます。

型通りの漢方の診察を終えて、「配置転換によるストレスが原因だろうからもうすぐ慣れるだろう、それまでこれを飲んでいなさい」と言って、抑肝散(よくかんさん)を渡しました。

抑肝散は、眼瞼けいれん、顔面けいれんや歯ぎしりの妙薬として有名です。

はたして、彼女は、1ヶ月後にはほぼ症状のことなど忘れて、業務に打ち込んでいました。

漢方を知る方にはオーソドックスな症例ではありますが、漢方でなければなかなか治癒できない症例といえるでしょう。

やはり西洋医学にはない良さがあるなと実感したものでした。


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